カタリダス福本伸行編「これから漫画家を志す人達へ」

12月15日24時55分よりTBSにて放送された「カタリダス〜MAKE IT GREAT〜」に、福本先生が出演しました。

「カイジ」作者が自作の秘密暴露、テレビで初めて“福本流漫画術”語る。
福本伸行、TBSでマンガ術熱弁「感情とネタで心を掴め」

「カタリダス〜MAKE IT GREAT〜」は毎回各界の有名人が登場し、PowerPoint*1を用いてひたすら語り続ける番組です。
今回の福本先生による語りは、作り手にとってとてもためになるプレゼンテーションだと感じたので、テキストに起こしてみました。読みやすくするため若干の修正はありますが、ほとんどそのまま載せてます。動画マダー?



漫画家 福本伸行

いわずと知れたギャンブル漫画の第一人者。
これまで1000万部を超えるカイジシリーズをはじめ、人間の本質を見抜くかのような緻密な描写で数々のヒット作品を描き続けている。
作品で放たれる台詞は漫画の枠を越え、読者に強烈なメッセージを投げかける。




漫画家の福本です。今日、僕は漫画家なので、話せることといったらこういうことくらいしかないんです。


「これから漫画家を志す人達へ」 


僕も20年ぐらい…いやもっと前だ、30年くらい前に漫画家になろうと志して、漫画を描こうとおもったんですけども、特に初めて描く場合や一本目二本目三本目、そういうときどういう風に漫画を考えて描いていいのか非常に困った時期があるんですね。困ったというか本当にわからなくなってしまうんです。
たぶん、今テレビ観ている人達の中には、漫画家を志しているけれどどうやって描いていいかわからない人もいると思うので、そういう人たちに向けて話したいとおもいます。

僕は常々思っていることがふたつあって、それを語る前にですね、実はこのカタリダスのスタッフと話したときに「僕は普段こんなことに気をつけながら漫画を描いている」という話をしたら「それはおもしろいのでちょっと話してくれないか」と言われまして、自分で自分の漫画を解説するのもおもしろいかなと思って、今日は立ち上がりにちょっと、その話を聞いてください。



読者がドラマを見るように伝える


僕はギャンブル漫画を描いているもんですから、特に創造ギャンブルというか、僕が考えたギャンブルを描くわけですね。それを読者に伝えようとしたとき、僕が創ったギャンブルなんだから読者は当然知らないわけです、何が何やら。
つまり、普通の漫画にはあんまりありえないんですけど、いわゆるルール説明のようなものが僕の漫画には起こるんですね。で、このルール説明というのが、実はとっても難しいんです。簡単そうに見えるんですけど、それを読者に伝えようとするにはすごく難しくて、僕なりに気をつけていることがあります。
で、もしもルール説明を、超イージーにやってしまうと、たとえばこんな感じになります。



これは駄目なバージョンで、このために僕が作ってきたものです。
これはカイジという漫画に出てくる和也という人間が、ヘルメットをかぶっているこの3人組に、あるギャンブルをやってもらうってことをこうやって、ただ、吹き出しで説明しているんですけども、こういう風な説明の仕方は最低です。

要するに、取扱説明書みたいに「お前らも知っての通りこの救出ゲームは3人が階段上のイスにくじびきで席順を決める」みたいなことを順番に説明していって、かつ、こんな風に言葉だけで説明するのがまず、駄目なんで、そうしないようにします。



で、これは少しまともなんですけど、これからやるゲームを主催者側の黒服というかそういう連中が、実際にやって見せてると。これも今日のためにわざわざ作ったんですけども、これもですね、僕的にはだめなんです。あの、この後に本当の勝負をやるのにこうやりますよって説明をするのはちょっとかったるいだろうと思うので、これもなるべく避けたい。では、何を気をつけたらいいかというと。



「構造」「順番」「舞台化」


どの視点で描くかとか物語の「構造」と、伝える「順番」と、あとこれが一番わかりやすいと思うんですけど「舞台化」、ライブのように実際読んでるひとがその場にいて、舞台のようなものをドラマを見るように伝えられればいいと思います。



これが、本番というか、僕がちゃんと漫画にしたかたちです。
まず彼らが入ってきます。このゲームをする部屋にね。
で「参戦っ!友情確認ゲーム『救出』に!」と。



で、それを見ているカイジがいます。カイジが驚いている、「本当に来た!」と。視点としては、読者とカイジは一緒です。カイジが感じていることは読者が感じていること。カイジは、このゲームを初めて見てるわけです。この3人は前もって説明を受けてるんですね、でも読者には伝えなきゃいけない。そのとき何にも知らないカイジが読者の目になって、一緒に反応していきます。



で、和也って奴がまた改めて説明というか始まるにあたってひとこと言うんですけど、僕はねこういうシーンがすきなんですよね。ここで話してた和也が部屋の向こう側に行くんですね、向こう側に行って3人に挨拶すると、で「ヘルメットもかぶってるな、準備完了だ」と。「友情確認ゲーム『救出』をはじめよう」と。



「お前らの全財産2150円が、ものの1時間強で化ける!」「1億円に!」と。カイジ驚く。

つまり説明ではなくて、ドラマが進行していく中で説明が成されていく、というのが理想なんです。技術的なことですけども、こういうこともちょっと考えながら作っていくといいと思います。



感動は伝えるものではない


で、これからが本番なんですけど、新人でこれからちょっと漫画を描くのに困っている人にですね、どういう風にアプローチしたらいいか。


「キャラクター」「テーマ」「構造」「感動」


新人の人が漫画を出すときは20ページから40ページだったり60ページだったりいろいろあるけども、つまり短編(読みきり)を描くんです。新人賞に応募したり編集に見てもらうために短編を描くときにですね、この4つをやっちゃうとうまくいかない例として、僕はこれを出したんです。

よく言われるのはこの「キャラクター」ですね。キャラクターを作れと。キャラクターを表現するというのは前もってキャラ設定を定めたからなるようなものではなくて、もっと、その人が持っているセンスというか、ハートというか、そういうもので出てしまうものという気持ちがあるんです。だからキャラクターを先行して話を作るというのは、意外と作りにくいと思っています。

次に「テーマ」。テーマっていうのも何か大袈裟なんですね、そうだな「男と女の間に友情が成立するか」とか、何かそういうところから入るとまたこれが裃を着たような話になって、話が転がっていかないんですね。

それから「情報」。情報というのはたとえば食だったりあるいは車だったり、いろんなことの情報を入れてですね、それをうまく伝える、これを元に話を作るのはどうかと。



で、「感動」。こういう風に思うと大体失敗するんですよ。感動は伝えるものではないんです。
感動っていうのは結果的に感動してもらえればいいわけで、最初から作り手が「ここで感動させるぜ!」っていうのはちょっとおかしな話っていうか、僕らが用意するのは敷きだけでよくて、そこから先は読者が受け取って感動する人もいるし、あんまり感動しないなって人もいると、それはいいじゃないかと。
つまり、よく言われるんですけども、こういうことにあんまりとらわれない方がいいなと。



感情とネタが読者の心を掴む


じゃあ何を羅針盤に描いていったらいいか。僕はまずこれです。



「感情」


感動ではなくて感情ってところが僕の中では絶対的に大事なことで。本当に自分の心の中で思ったことを描いてほしいんです。
それは些細な小さなことでいいんです。コンビニかなんかで女の子の店員が優しくしてくれたとかなんかちょっと嬉しかったとか、そういう自分の内側に沸いた本当の感情を出してほしいんです、漫画に。それをドラマにしてほしいんです。
さっき「テーマ」あるいは「キャラクター」って言いましたけども、そうすると外から持ってくるんですね、その気持ちを。外じゃなくて内から沸いてくる感情を大事にしてほしい。それを伝えられたなら、もしかしたら人は感動するかもしれない。


で、もうひとつ。僕はこのふたつがあれば漫画は相当おもしろくなる、と思っています。



「ネタ」


それがネタです。アイデアと言ってもいいです。
僕がギャンブル漫画というかゲームを作る漫画なもんですから、なおのこと、こういうネタとかにすごく重きを置いてるんですけども、自分が考えたネタというものは、あるいは自分の内側から出た感情というものは、あなただけのものなんで、あなたが考え付いたネタというのは圧倒的に新しいわけですね。みんな初めて見る話なわけです。
で、何がおもしろいって、世の中新しいことはおもしろいんです。このネタっていうのはね、ほぼ裏切らないんです。大体みんなおもしろい。おもしろいネタは、大体みんなおもしろいと感じるようになっているというか、僕は信じているので、これを考え付いてください。恋愛でもあるだろうしゲームでもあるだろうし、どんな漫画にもネタ、アイデアというのは必要だと思います。
ネタが冴えてて、感情が表現できてたら、それは相当おもしろい漫画になると思います。そうやってネタを用意して自分が本当にリアルに感じた感情をそれをそのまま20ページ40ページの漫画にしてください。それがまず最初の入り口です。



読者を自分の桃源郷に連れて行ってほしい


で、最終的にこれは僕も目指しているんですけども、こういうことだと思っているんです。


「別の世界に連れて行ってくれる作家に作家になって欲しいっ…!!」


僕という人間が、考えたこと感じたことあるいは思いついたアイデアっていうのは僕個人のものですから、それで知らない人を巻き込んで、僕の桃源郷に連れていくのがとてもすばらしいことだと思うんですよ。なかなか大変ですけども、ぜひ、こういうことを目指して漫画を描いてください。
えー…僕本当に漫画のことしか話せなくてなんか…あれですけど、今日こうやって結構話せてよかったです。どうもありがとうございました!



出演者からの質問受付

Q.どういうときにネタは思いつくんですか?

まあ基本的にはもし考えようとなったらファミレスとかあるいは自分の机でちょっと考えこみますよね。で、あの下りてきたことがあって、思いついたこと、そのことと、それをさらにどうしたらもっとおもしろくなるかって考えるのはちょっとまた別のことで、それをよくするってことは割と努力で結構埋められるから、下りてくるみたいな感覚のことっていうのはやっぱずっと考えてて「これおもしろいんじゃない?」ってある日ね、思うみたいな感じかな。


Q.福本さん自身はやっぱりギャンブルが強かったりするんですか?

あはは!これよく訊かれるんですけど、本当並だと思います。並ですけど、好きですよ。たとえば二泊三日でマカオに行って、ずっとカジノにいて大丈夫なタイプです。観光いらないって感じです。


Q.言葉のチョイスがすばらしいのですが、そういうものはどこから生まれてくるんですか?

なんだろう、たとえば僕だったら、昔小説とか読むじゃないですか、そうするとかっこいいセリフとかかっこいい言い回しに傍線ひいてましたね。あとはもうなんだろうな、僕もかっこいいセリフにしびれちゃうんですよ、言うなら。僕はね、ああいう感じがなんていうか好きで、感じたままに出してるんですけども、まあそんな感じなんですよね。


─福本さん貴重なお話ありがとうございました。今回の語り部福本伸行さんでした!



感想

以上、福本先生によるテレビ初公開の漫画論でした。
キャラクター先行、テーマ先行だと、どうしても外側から物語を描くことになる。そうではなく、内側から沸き起こってきた自分だけの感情とネタを漫画で表現する。
シンプルなことだけど、すごく明快でわかりやすかったです。感動ではなく感情を描いているから福本先生の漫画は読んでて心が揺さぶられるんだろうなあとおもいました。福本先生の熱弁にも感動した。「ウィキペディア創設者ジミー・ウェールズからのメッセージをお読みください」を今すぐ「カイジ原作者福本伸行先生からのメッセージをお読みください」に差し変えたいくらい感動した。
本当に煮詰まってるアマや漫画家志望者にとってはどうだったかわかりませんが、わたしのようなド素人は素直に感心できて勉強になりました。関東ローカル番組のため観たくても観られない方もたくさん見かけたので再放送か全国放送おねがいしますボロ…ボロ…
ちなみに出演者(観客)はD-BOYSでイケメン揃い*2だったのですが、福本先生が負けず劣らずのダンディイケメンでさすがでした。ほぼノーカットとはいえトーク部分がたったの15分ほどしかなく、せっかくいい番組なのにもったいない構成。もっと知りたいな福本先生のこと。



関連リンク

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「ウドで訊く!」の福本回とかいろいろ見当たらない…。
 
 

*1:マイクロソフトがスポンサーの番組なので。

*2:テニミュの千石と菊丸がいてわろた。